「スカーチョ」と聞くたびにドン・ガバチョが出現する

流行のファッションアイテムを指す独特の用語を素直に受け入れられない。ムズムズするというか、イライラするというか、適切な言葉が見つからないが、とりあえず穏やかに微笑めないことは確かだ。
 
最近、耳につくのが「スカーチョ」である。スカーチョて。スカートとガウチョパンツを組み合わせたようなデザインのボトム? スカートに見えるガウチョパンツ? はぁ? 要するにキュロットスカート? え? 違うの? まぁ、別に何でもいいんですけど。
 
新しい商品を売るための努力は素晴らしいと思う。本当に、皮肉ではなく。ただ、よくあるテレビのファッションコーナーで「人気モデル」がこの造語を口にするのを聞くと、どうにも体内をぐちゃぐちゃーっとかき混ぜられたような気分になる。彼女らは無邪気に言うのだ。
 
「今期はスカーチョがすごい流行っていてぇ」
 
別に無邪気に言ってるわけじゃない! と怒られるかもしれないが。
 
ちなみに、最近の人気モデル解説のトレンドとして、「~していて」と言い方が散見される。別にいいんだけど。いいんだけど、気にしだすと気になる。不快というわけでないが、何か引っかかる。猫も杓子も同じことを同じ言い方で伝えるからなのだろうか。
 
それはさておきスカーチョである。スカートは説明するまでもないだろう。ガウチョパンツは、裾広がりの七分丈パンツである。ガウチョは南米の草原地帯のカウボーイのことで、彼らが着用するパンツに由来するものなのだそうだ。(文化出版社『ファッション辞典』より)。つまり、ガウチョパンツはもともと男性が身につけるファッションであったと。そこに女性らしいエッセンスを加えましたよという意味あいを込めて「スカート」という語をブレンドしたのか。そう考えるとなるほど納得である。しかし、スカーチョと言い出す前からすでにスカートっぽい雰囲気のガウチョパンツは出ていたではないか。いや、わかっている。スパッツをレギンスと言うのと同じだとわかっている。ホットケーキをパンケーキと呼ぶのと同じことだとわかっている。ええ、そうです、ハイネックセーターのこと、とっくりセーターとは言いませんものね、ワインレッドをバーガンディーと言うと新鮮ですものね、厳密な定義なんか不要ですよね、わかっていますよと。でも、スカーチョて。みなさん言ってて恥ずかしくないのだろうか。私は聞いているだけでムズムズしてしまう。「スカーチョというかガウチョだろ」とツッコまずにはいられない。そしてその瞬間、私の脳内にはドン・ガバチョが現れるのだ。「ガ」と「チョ」がかぶってるからね。イギリカ国ドンドン市出身・ひょうたん島大統領のガバチョさんである。
 
「スカーチョ」という単語を口にする際、彼女らは何を感じているのだろう。仕事だからプロ根性で恥ずかしさを乗り越えているのだろうか。恥ずかしさなど微塵もないのだろうか。はたまた、これまでにない用語にフレッシュさを感じているのだろうか。スカーチョ情報を伝える業界関係者の方で「スカーチョて!」と思わずツッコんだ人がいたのなら、私は少し救われる気がする。