道に迷った。通いなれた道で迷ってしまった。10年前に親しんだ街。忘れてしまった。
新しくできたビルが目的地だった。地図をざっと見てわかると思った。でも、迷った。目印にしようとした建物がなくなっていた。ぼんやり歩いていたせいで、駅の出口を間違えた。気づいたら、いつも通っていた道を歩いていた。
引き返そうかと思ったが、土地勘はあると思った。でも、迷った。なかなか目的地にたどり着けなかった。目的地の区画をぐるぐる歩いていた。
街並みが変わったと言えるほど、まったく別物になってしまったわけではない。その証拠に、「あぁ、懐かしい」と感じる場所もあったのだから。ただ、いつも目にしていた建物がなくなってしまったことは、大きな変化だった。
そして、私は多くを忘れた。
10年という月日を想った。
私は何をしていたのだろう。楽しいことがたくさんあったはずなのに思い出せない。思い出したくない。
コーヒーにミルクを入れる。もうミルクを取り出すことはできない。苦みを味わう。コーヒーはうまい。
いやなことばかり思い出す。最悪な気分になる。
「時間が薬になる」
それはどういうことだろう。
頭が痛い。
私は藻のように、ふわふわと空間を漂っていたい。過去も未来もない、時間と無関係な世界で。
(作成時間:20分)